02 時空の叫びMission02 時空の叫び朝だ。起きる時間だ。 ……やっぱり。自分の姿、ピカチュウのままだ。 夢じゃなかったのか…… そうだ。ルナっていったっけ?あのミズゴロウ。 確か一緒に探検隊やるって話したんだよね。 ルナはどうしてるかな……ちょっと外に出てみよう。 「レイ、おはよう!」 レイが小屋から出るとすぐ、ルナが話しかける。 「この小屋、居心地どう?昨日まで誰も住んでなかったから、汚れてたと思うけど……」 「ああ、問題なしだよ。一応掃除したし」 ここで、ルナが少し大きな箱を持っていることにレイは気づく。だが聞く前に。 「でね、昨日のうちに探検隊ウィンズのチーム登録をしてきたの」 「登録?」 「ええ。探検隊として活動するってね」 ルナの持っている箱の中には、探検隊バッジと地図が入っていた。バッジは探検隊の証である。 箱も道具箱として使えるようだ。 「それで、勝手なんだけど……ウィンズのリーダー、レイにお願いしていい?」 少し申し訳なさそうなルナの言葉。ちょっとの間を置いて、レイ。 「……わかった。僕でよければ」 「ありがとう、レイ!」 こうしてウィンズのリーダーはレイに決定した。 それに伴い、小屋の前にポストが設置された。 「このポストには、救助の依頼や新聞が届くのよ。けど今は依頼ゼロみたい。まあ仕方ないけどね……結成したばかりだし」 レイには返す言葉がない。ルナが話を続ける。 「ポケモン広場の掲示板にも依頼が届くから、それを見に行こう!」 レイとルナは、ポケモン広場にやってきた。 アイテムショップや倉庫、銀行が並ぶ広場で、探検隊はここで探検の準備をするという。 そうルナが話していると、1匹のカラカラとすれ違う。 「あ、おはよう、グレア」 「ルナか。おはよう。ところで、そのピカチュウは誰だ?」 「こっちはレイよ。レイ、紹介するわね。カラカラのグレア、私の友達よ」 「っと、よろしく」 グレアも、よろしくと返す。そしてバッジに目を留める。 「そのバッジ……お前ら探検隊始めたのか」 「そうよ。まだ始めたばかりだけどね」 一瞬、会話が止まった。レイにとっては妙な視線を感じる一瞬だった。 「そうか、がんばれよ」 それだけ言って、グレアは歩き去っていった。 レイとルナは、カクレオンの店を訪れる。 「お金あんまり持ってないから、買う物は選ばなきゃね」 ルナの話を聞きながら、歩を進めるレイ。 「あれ、客がいるな」 カウンターをはさんで、店番のカクレオンと話すポケモンが3匹。マリル、ルリリ、スリープだ。 「まいどー!いつもえらいね」 「ありがとうございます」 マリルがあいさつする。 「これで買い物は済んだな。お待たせしました、タピルさん」 「いいんだよ。じゃ、落し物を捜そうか」 タピルというスリープは、穏やかな表情でそう言った。 「よし、アリア。行こう」 「うん、お兄ちゃん」 そう言って歩き出した瞬間、ルリリ――アリアが石につまずく。 「あっ……」 「危ない!」 ルナが声を出すのと同時に、レイがアリアを助けていた。 「す、すみません、ありがとうございます」 まだ少しあわてた様子で、アリアが言う。 ――その時、レイが突然ふらついた。 いきなり目まいがする。なぜかはわからない。 ――た、助けてっ!! 何が起きたのか、助けを求める声が聞こえた。 声色はアリアのものであろう。 どうしてこんな声が聞こえたのか、レイには全くわからなかった。 「ど、どうかしましたか?」 アリアがレイに声をかける。 「大丈夫か、アリア?」 兄の声だ。 「うん、大丈夫」 と、弟。 「ありがとうございます」 弟の言葉に安心した兄は、レイにそう言った。 「あのポケモン達は?」 ルナが、店番のカクレオンに問う。答えはすぐに返ってきた。 「マリルとルリリの方は、スティラくんとアリアくんっていう兄弟なんですが、 最近お母さんの具合が悪いので、ああやって代わりに買い物しに来るんですよ」 「そうなんですか……」 カクレオンが話を続ける。 「あの兄弟が大切な物を捜しているらしいんです。タピルさんは、それをこれからお手伝いされるそうです」 その時、ルナはレイが棒立ちになっていることに気づく。 「どうしたの、レイ?」 「……ルナ、さっき助けてっていう声がしなかったか?」 ルナの頭上に?マークが浮かぶ。 「え?聞こえなかったけど?」 「私も何も聞こえませんでしたよ?」 ルナに加えてカクレオンも。レイ以外の全員が同じ答えだった。 「そうか……」 だが、レイにはこの言葉が気のせいだとは、なぜか思えなかった。 「じゃ、ボク達はこれで」 スティラがそう言って歩き出し、アリアとタピルも続く。 その時、タピルの体がレイにぶつかった。 「おっと、これは失礼」 「いえ」 3匹がその場を去っていく。その時。 再び、目まいがレイを襲った。 ――まただ……なんだ、これ…… 今度は、映像が見えた。どこかの山の中だろう。 「言うことを聞かないと……痛い目にあわせるぞっ!!」 声の主はタピル。さっきとは全く違い、表情も言葉も脅しそのものだ。 「た、助けてっ!!」 絶体絶命のアリアが叫ぶ。 映像は、そこで途切れた。 「レイ、具合でも悪いの?」 心配そうなルナの表情。 レイは、今自分が見た映像のことを話す。 「そ、そんな!?アリアがタピルさんに襲われてるところを見た!?」 驚きを隠せないルナ。当然ではあるが。 「本当だとしたら大変だけど……あんなに親切そうなタピルさんが、そんなことをするなんて……」 レイの目にも、明らかにルナが戸惑いの表情を見せているのがわかった。 「……悪い夢、だったのかな……」 そう思いたかった。平和であるに越したことはない。 考え込むレイの横から、突然ルナの声がする。 「それじゃ、そろそろ掲示板を見に行きましょうか」 その掲示板は、海に臨む岬の近くにあった。 すぐ隣の建物からは、時折ペリッパーが飛んでゆく。 「ここよ。依頼の掲示板は」 見てみると、救助依頼の数々が掲示板には張り出されている。 それらに並んで、「WANTED」という見出しのついた人相書きも見つかった。 「ルナ、このWANTEDが付いた張り紙は何かな?」 レイの質問。ルナがすぐに返す。 「こっちはお尋ね者よ。悪いことをして、指名手配されているポケモンらしいわ。 といっても、極悪ポケモンもいれば、ちょっとした泥棒もいるんだけどね」 「そういう悪人……いや、悪いポケモンを捕まえるのも、探検隊の仕事ってわけか」 ルナと話しながら、レイは掲示板を眺めていた。 そこに、見覚えのある人相書きがあることに気づく。 「こ、これは!?」 思わず声をあげてしまう。 「……あっ!?」 レイの言いたいことが、ルナにも瞬時にわかった。 彼の目に留まった人相書きは……先ほど出会ったばかりのスリープ、タピルのものだったのだ。 「言葉巧みに小さなポケモンをだます誘拐犯……アリアが危ない!」 言いながら、レイは広場の方へ走りだした。ルナもすぐさま続く。 広場に戻ると、彼らの目前に青いポケモンが現れた。 アリアの兄、スティラだ。 「あなたがたは、さっきの……」 「アリアはどこに!?タピルさんは!?」 スティラの言葉を遮り、ルナが問い詰める。 「そう!そうなんです!ボクが一度家に戻ってる間に、2匹ともいなくなっちゃったんです!!」 「いなくなった!?どっちの方角か、知らないか!?」 レイの質問に、考え込みながらも答えるスティラ。 「確か、トゲトゲ山に向かうと言ってました!あそこになら、探し物があるかもしれないって!」 「トゲトゲ山……そうだ、あの映像は山の中だった!」 「ここから遠くはないわ、まだ間に合うかも!」 「よし、急ぐぞ!!」 レイとルナは、すぐさまトゲトゲ山に向かっていった。 そんな彼らを……灰色のポケモンが1匹、無言のまま見ていた。 「…………。」 トゲトゲ山は、名前からもわかるように岩だらけの山だった。 だが小さい山で、登るのに時間はかからない。 2匹は岩の転がる山道を登っていった。 その山頂のほど近くに、木でできた山小屋があった。 「怖いよう!帰りたいよう!!」 小屋の中に、小さなポケモンが1匹。声を限りに叫んでいる。 「静かにしろっ!!!」 怒鳴りつける声が、その数倍大きなポケモンから発せられる。 大きなポケモンは、不敵な笑みを浮かべていた。 「結構登ってきたと思うけど、アリアはどこにいるんだ?」 暴れていた野生のドードーを追い払うと、レイは息をつきながら言った。 「この山には私も来たことあるけど、そろそろ頂上だったはずよ」 ルナが、歩きながら言葉を返した。 「……おっと、小屋がある」 レイが立ち止まる。登山道の端に、小さな小屋。 後ろを歩いていたルナも足を止めた。 「静まり返ってる……いやな感じがするわ」 「よし、僕が様子を見てみよう」 レイは、窓から小屋の中を覗いた。 視界の端に、青い小さな何かが見える。 小さくうずくまる、青い玉のようなポケモン。 ――アリアだ。こんなところにいたのか。 その周囲を見回すと、今度は黒い下半身を持つ大きなポケモンが目に入った。 だが、そのポケモンはすぐレイの視界から消えていく。 黒い下半身で思いつくのは、タピルを置いて他にはいない。レイは考えを巡らせた。 その時、扉が開く音がした! ――しまった、気づかれた! レイが扉の前に戻った時、ルナはタピルの目の前で固まっていた。 「お前たち、よくここがわかったな」 抑揚のない声で、タピルが言った。 「……レイ……気をつけて……」 やっと聞こえるような小さな声で、ルナがレイに語りかけた。 「お前、ルナに何を!?」 「大したことは無い。かなしばりで止まってもらっただけさ」 そう言いながら、タピルはレイに向けて片手をかざす。 「なっ……!?」 突然、レイは強力な重力を感じた。体が自分のものじゃないように重い。 タピルのかなしばりにかかってしまったのだ。 「ふはは、情けないな。オレの邪魔をするからそうなるんだ……ん?」 タピルが目線を動かした。動けないレイがその目線を自分の目だけで追ってみると、 そこにはこっそり逃げ出そうとするアリアが映った。 「待てっ!!!」 腹の底から大声を出し、それからタピルはアリアの方に向き直る。 アリアはびっくりすると、次の瞬間全速力で逃げ出した。 それを見たタピルは、意外なほど素早い動きでアリアの前に回り込む。 「困るなぁ……おとなしくしてもらわないと」 「…………。」 「さあ、小屋に戻るんだ!」 アリアはすくみあがって動くことができない。さらに顔をこわばらせ、タピルが言葉を続ける。 「言うことを聞かないと……痛い目にあわせるぞっ!!」 「た、助けてっ!!」 こらえきれなくなって、アリアは声の限り叫んだ。 その時だった。 白く輝く太陽を背に、小さなポケモンが飛びかかってくる! 「あっ!」 アリアの声につられて、タピルが振り向く。 だが遅かった。その時には、ポケモンはタピルのすぐ真上まで降りてきていた。 「ていやあぁっ!!」 そのポケモンの手に握られた骨が、タピルの頭を強打した。クリティカルヒットだった。 「うおおっ!?」 タピルは前のめりに倒れた。 「あれ、グレアじゃない!?」 状況についていけないアリアの前で、かなしばりの解けたルナがグレアに駆け寄っていた。 「助かった、ありがとう」 という声はレイのものだ。 「いいんだ。それより、そいつを早く捕まえて突き出そうぜ」 「そうね。アリア、大丈夫だった?」 「は、はい。大丈夫です」 レイとグレアは、のびているタピルをロープで縛り上げていた。 ポケモン広場の一角で、タピルは誘拐犯として逮捕された。 「ゴ協力、感謝イタシマス!」 レイ達に報酬を与えると、ジバコイル保安官率いる警察隊はタピルを連行していった。 タピルは何も言わなかった。 そして、隣にはスティラとアリアの兄弟。 「本当に、ありがとうございました」 アリアに抱きつかれたまま、スティラが言った。 「ぐすっ……怖かったよ……」 「ほら、アリアも」 兄の言葉に、弟もレイ達に向き直る。 「うん。助けてくれて、ありがとうございます!」 その帰り道で。 「まったく、お前ら本当に無茶するぜ」 グレアの率直な感想。 「ははは、ごめん」 笑いながらルナが返す。 「まだまだ力不足だな、僕は」 レイの静かな言葉。 「そんなことないよ、レイ」 「……わかった」 突然、グレアが立ち止まる。 「俺もお前らの仲間になろう」 「えっ!?」 グレアの突然の申し出に、ルナはびっくりしていた。 「なんだ?嫌か?」 「ぜ、全然!ね、いいわよね?レイ?」 「ああ、もちろん」 グレアがレイの前に出る。右手を差し出し、 「レイっていったな?俺が鍛えてやるぜ」 レイがグレアの右手を握り返す。 「よろしく頼むよ」 探検隊ウィンズの物語は、まだ始まったばかり―― Mission02でした。前章を大幅に上回る長さになりました。 探検隊のChapter-3をベースに、グレア登場話の要素を入れた構成。 執筆は結構難しかった。 2008.01.20 wrote 2008.02.05 updated ジャンル別一覧
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